ナレッジマネジメント(KM)が古いと言われないためのKPIの設定方法や具体例を紹介
- KPI
ナレッジマネジメント(KM:Knowledge Management)とは、企業や個人の持つ知識を活用したり、新たな知識を創造することで価値を創出する手法のことです。
ナレッジマネジメントでは、組織に所属する従業員の知識や経験を効果的に収集、共有、活用するために重要ですが、適切に管理するためには、重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)があった方がやりやすいでしょう。
今回は、ナレッジマネジメントにおけるKPIの重要性と、その設定方法について詳しく解説します。
KPIを適切に設定し運用することで、ナレッジマネジメントの効果を最大化し、組織全体のパフォーマンス向上につなげることができます。
関連記事:KPIとは?意味と設定方法、具体例を紹介
INDEX
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、冒頭で述べた通り、企業や個人が持つ知識(ナレッジ)を集約、管理し活用することで、新たな知識を発見したり業務に繋げて価値を生み出す経営手法のことです。
ナレッジマネジメントでのナレッジの種類は大きく分けて2つ、形式知、暗黙知の2種類の知識を扱います。
形式知
形式知とは、客観的に捉えられる知識のことを指し、文章や図解、数値などで表現されているような知識のことを指します。
- 言語化された知識であり、論理的な構造で説明できる
- マニュアルや説明書など、誰が見ても理解できる形で表現されている
形式知は、企業内で従業員間で共有・継承が可能な知識資産として重要視されています。
暗黙知
暗黙知とは、個人の経験や感覚、勘、直感などに基づく知識やスキルのことで、言語化や文書化が困難なものを指します。
見て覚えたり、実践を通して身に付けた感覚的な知識が多いため、個人の主観的な経験に基づく知識である場合が多いです。
熟練社員に属人化して以下のような現象が起こり、組織全体で共有するのが困難な傾向にあります。
- 言語化や図形化が難しい
- 個人の経験から獲得される
- データとして集約が難しい
暗黙知の具体例として挙げられるものには、一例として以下のようなものがあります。
- 職人技や車の運転など、身体的な暗黙知
- 個人の顔や特徴を覚えるなど、認知的な暗黙知
- センスの良いデザイナーの技術や、交渉上手な営業マンのトークスキル
- 社内調整に長けたコミュニケーション・タレントマネジメント能力
暗黙知は個人の磨いたスキルや能力なので、他社にはないかもしれない大変貴重なものですが、組織内での発展は難しい傾向にあります。
会社として欲しい知見ではありますが、過度な報連相の強要などを行なうと独立されたり、他社への転職される危険性があります。
だからこそ、社内に発展させる手法として、形式知化するナレッジマネジメントを活用することが重要視されています。
関連記事:報連相は古い!時代遅れ!日本だけ!本当の意味でなければ必要ない!
暗黙知の形式知化の3つの手法
ナレッジマネジメントでは、以下の3つの手法で暗黙知を形式知化します。
- SECI(セキ)モデルのフレームワーク実施
- 知識共有の場をデザイン
- ナレッジ継承の仕組み化
SECI(セキ)モデルのフレームワークの実施
SECIモデルとは、形式知と暗黙知を以下の4つのプロセスで相互変換し、組織の知識を活用するフレームワークのことです。
- 共同化(Socialization):暗黙知から暗黙知へ(例:OJTなどで経験を共有)
- 表出化(Externalization):暗黙知から形式知へ(例:経験を文書化)
- 連結化(Combination):形式知から形式知へ(例:複数の形式知を統合し共有)
- 内面化(Internalization):形式知から暗黙知へ(例:形式知を実践して体得)
このサイクルを繰り返すことで、組織の知識が蓄積・創造・活用されていきます。
知識共有の場をデザイン
「知識共有の場をデザインする」とは、組織内で暗黙知や形式知が生まれ、共有され、活用されるための環境や機会を意図的に作り出すことを指します。
具体例としては以下のようなことが挙げられます。
物理的な場のデザイン
- 社員同士が気軽に交流できる喫煙室やラウンジスペースを設ける
- 社内チャットなどのデジタルでのコミュニケーションの場を設ける
- アイデア創出を促すブレインストーミングなどの知識共有の会を設ける
心理的な場のデザイン
- 社員同士が自由に意見交換できる風通しの良い組織文化をつくる
- 上司や先輩社員が後輩に対して知識を共有する姿勢を促す
- 社員同士の対話を活発化させるためのスキルを身につける
- 社員の多様性を尊重し、誰もが発言しやすい雰囲気を作る
技術的な場のデザイン
- 社員の知識やノウハウを蓄積するデータベースやWikiを整備する
- 社員プロフィールやスキル情報を共有できるシステムを導入する
- 社内の課題や質問に対して適切な知識を提供できるAIチャットボットを活用する
このように、物理的・心理的・技術的な側面から、知識が生まれ、共有され、活用される場をデザインすることが重要です。
そうすることで組織の知的資産が蓄積されていき、長期的な目線での生産性と競争力の向上が期待できます。
注意点としては、強要するのではなく自発的は発信を促すことが重要です。そうでないとモチベーションが下がるきっかけになりかねません。
関連記事:モチベーションが下がるきっかけの一例とKPI達成のための対策を紹介
ナレッジ継承の仕組み化
上記のような文化を醸成することで、知識資産の継承が行なわれる風土が育っていきます。
その上で、ある程度仕組み化しておくことができれば、暗黙知が失われる可能性を下げることができるでしょう。
企業や組織内の個人が持つ知識や経験、ノウハウなどの暗黙知を、形式知として文書化やマニュアル化し、組織全体で共有・活用できるようにする必要があります。
そうすることで、以下のようなメリットが生まれます。
- 優秀な人材が退職しても、その知識や経験は組織内に残る
- 新入社員の教育期間が短縮され、早期戦力化が可能になる
- 組織全体の知識レベルが向上し、業務の標準化と効率化が図れる
- 新たな知識の創造や、新商品・サービスの開発が促進される
ナレッジ継承の仕組み化は、企業の競争力強化や持続的成長に必要な取り組みであり、ナレッジマネジメントの重要な一環として位置づけられています。
ナレッジマネジメントが古いと言われる理由
このようなナレッジマネジメントですが「古い」と言われることもあります。
情報を扱う以上、情報の変化が早いと古い印象がより強く出てしまうことが主な原因です。
テクノロジーの進化
ナレッジマネジメントが初めて注目されたのは1990年代ですが、それ以降の技術進化が急速に進んだため、当初のナレッジマネジメントのシステムが時代遅れと見なされることがあります。
クラウドコンピューティングやAI、ビッグデータ解析の普及により、情報管理の方法が大きく変わりましたが、十分に活用できていないと、古さを感じさせてしまいます。
システム自体を新しくするか、ものすごくシンプルにするかによって多少は防ぐことができます。
知識共有の文化の衰退
組織内での知識共有はシステムだけでなく、文化にも依存します。
多くの企業では、知識を共有する文化が十分に根付いていないため、ナレッジマネジメントの取り組みが効果を発揮しにくい状況があります。
特に最近では社内への情報共有よりも社会への情報共有の方が簡単なケースも散見されるため、個人の知識や経験を組織全体で共有する意識が低い場合、十分な成果を得られません。
インセンティブ制度を導入することで、社会への情報発信よりも大きなメリットを提供することで、社員が知識を共有する動機づけを強化することが有効です。
情報スピードの変化の早さ
現代のビジネス環境は変化が激しく、ナレッジ自体がすぐに古いと感じられるケースもあります。
そのような場合、ナレッジマネジメントをする前にオワコン化してしまうことも多く、かえって業務の非効率化を招くことがあります。
ナレッジ自体が見える化できていれば、使える使えないの判断が全員ができるようになり、非効率化を防ぐことができるでしょう。
ナレッジマネジメントにおけるKPIの役割
ナレッジマネジメントにおいて、KPIは以下の役割を果たします。
ナレッジマネジメントの目標達成状況の測定指標
ナレッジマネジメントでは、組織の目標達成に向けて従業員の知識やノウハウを共有・活用することが重要です。
KPIは効果を数値化し、可視化するための指標ですので、適切なKPIを設定することで、この目標達成の進捗状況を数値化して測定できます。
ナレッジマネジメントの効果の見える化
ナレッジマネジメントによる業務効率化やコスト削減、提案促進などの効果を、KPI達成度の推移から見える化できます。
これにより、ナレッジマネジメントの意義や必要性を上層部に示しやすくなるひとつのきっかけとなります。
関連記事:見える化はダサい?意味ない?気持ち悪い?
ナレッジマネジメントの改善点の特定
KPIの達成状況から、ナレッジマネジメントの課題や改善点を特定できます。
例えば、ナレッジ共有が不十分であれば共有を促進する施策を講じるなど、PDRサイクルを回して継続的に改善を図ることができます。
関連記事:PDCAサイクルは古い!時代遅れ!KPI設定の代わりになるものはOODA(ウーダ)ループ?
情報収集・情報共有に対する従業員の意識向上
従業員一人ひとりにKPIを設定することで、ナレッジマネジメントの重要性を認識してもらえます。
また、KPIの達成に向けて能動的にナレッジを共有・活用するようになり、組織全体の意識向上が期待できます。
KPIを活用して目標達成状況を把握し、改善を重ねることで、ナレッジマネジメントを効果的に推進できます。
ただし、KPIによる管理が難しい場合には、OKR目標管理手法を取るなど柔軟さが求められます。
関連記事:OKRとは?簡単にわかりやすく解説!
KPIの基本はSMARTの法則
SMARTの法則とは、目標設定の際に具体性、計測可能性、達成可能性、関連性、期限を意識することで、効果的で現実的な目標を立てるための手法でKPI設定の際に気をつけなければならないものです。
具体的には以下の5つの要素から構成されています。
- Specific(具体的):目標が明確で具体的であること
- Measurable(計測可能):目標が数値化できること
- Achievable(達成可能):目標が現実的で達成可能であること
- Relevant(関連性):目標が組織の目的や個人の役割に合致していること
- Time-bound(期限):目標の達成期限が明確に設定されていること
関連記事:SMARTの法則とは?目標設定のポイントをわかりやすく解説!
ナレッジマネジメントのKPIの具体例
「知識」という数値化しにくいもののKPI設定において、やはりどうすれば良いか分かりにくい方もいらっしゃるでしょう。
ここでは具体例を用いて説明します。
以下のような例で掲げるようなものは、期限を設け、具体的で数値化でき、達成可能で関連性のある目標を設定することができます。
例1. 知識共有の頻度
組織内での知識共有の頻度を測定する指標です。
最もナレッジマネジメントに即したKPIと言えるでしょう。
例えば、社内のナレッジベースへの投稿数や、ナレッジ共有のための会議の回数などが該当します。
例2. 習得した知識の活用度合い
共有された知識がどの程度活用されているかを測定します。
ナレッジのデータベースからの情報を見た回数や、共有されたノウハウの実践利用例数などが該当します。
例3. 学習時間
従業員が自己学習や研修に費やす時間の増加を測定すると、組織全体の学習意欲やナレッジマネジメントの効果を評価する指標となります。
応用例として、勉強会やウェビナーへの参加回数なども指標となります。
まとめ
ナレッジマネジメントにおけるKPIの設定と運用は、組織の知的資産を最大限に活用するためにあると便利です。
具体的で測定可能なKPIを設定し、定期的なデータ収集と分析を行うことで、ナレッジマネジメントの効果を最大化することができます。
一個人の経験や知識を組織全体のパフォーマンス向上に寄与させるようなナレッジマネジメントを実現しましょう。
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